研究開発プロジェクト「MAGNI」
エイティングでは、「挑戦し続ける」ことをスローガンに掲げ、新しい技術や表現方法に積極的に取り組んでいます。
その一環として、最新技術を活用した研究開発を継続的に実施し、幅広いジャンルや手法の検証を行っています。
これまでエイティングでは、Unreal Engine 5 研究開発Project”RAIZIN”と、最大64人対戦近接バトルロイヤル技術検証Project”BRAVE”の研究成果を発表してきました。その後も、エイティングでは研究開発を継続しており、今回はオープンワールド技術検証Project”MAGNI”をご紹介させて頂きます。
オープンワールドxフォトリアルの検証
MAGNIで私たちが挑戦したのは、オープンワールド環境とフォトリアル表現の両立です。
国内ではまだ開発事例が少なく、受託開発においても経験のない領域に依頼が寄せられることは多くありません。
だからこそ、実際の案件を受ける前に自ら課題を洗い出し、解決策を積み重ねておく必要があると考えました。
広大なフィールドを構築し、動的なライティングや天候変化に加えて、地形・植生・気象の振る舞いまで自然環境を可能な限り再現するには、多くの技術的ハードルが存在します。 MAGNIではそれらに正面から取り組み、少人数の開発体制でも成立するオープンワールド制作手法を徹底的に検証しました。
このプロジェクトは、単なる技術実験にとどまらず、 新たな領域へ踏み出すエイティングの姿勢を示すものです。
完成したモックと研究の成果
モックの内容やこだわりのポイントに加えて研究対象となった部分を紹介します。
オープンワールド環境の実現
MAGNIでは、広大な自然景観をフォトリアルに描き出すため、Unreal Engine 5 の多彩な機能を組み合わせて活用しました。
特に「少人数の開発体制でもオープンワールドを構築できること」を目標に、ワークフローの最適化と表現力の両立に取り組んでいます。
- World Partition によるワールドの自動分割、レベルストリーミングシステムを活用し、オープンワールド環境を効率的に開発
- HLOD(Hierarchical Level of Detail)による遠景描画の最適化で、広大な景観のレンダリングを可能に
- Nanite を活用し、工数を削減しながらも、高品質で密度感のある景観を制作
- Lumen やVirtual Shadow Map(VSM)などの動的なライティングシステムを使用し、時間変化や天候変化のある、臨場感あふれる世界感を演出
- Data Layer を活用した、没入感を途切れさせないシームレスなステージ遷移を実現
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また、開発効率の向上のため、Houdini やPCG(Procedural Content Generation)などのプロシージャル生成技術も多く取り入れました。
Houdiniは主に、崖のディティールや洞窟など、大型の地形アセットの生成に活用しています。
崖のディティールにはメッシュが使用されており、ハイトマップから一定の傾斜以上の範囲を抽出してメッシュ化することで、ハイトマップだけでは表現できない複雑な凹凸を地形に追加することができました。
プロシージャル生成を活用することにより、レベルデザインの都合でハイトマップが変更された場合でも、大きな手戻りを出さずに、新しい地形に合わせたメッシュを再生成することが可能です。
崖のメッシュのような大規模なアセットの再生成には、時間や複数の工程が必要だったため、更に作業を効率化するためにも、Jenkinsによるナイトリージョブで自動的にメッシュの更新するようなワークフローを構築しました。
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島内の洞窟も、Houdiniによるプロシージャルモデリングによって生成されています。
スプラインなどの入力を元に、簡易的な形状から、鍾乳石や光る鉱石などの複雑なディティールを持ったものも出力できたので、レベルデザインと完成形を往復しながら調整することが可能でした。
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Unreal Engine 5 の新機能である PCGは、景観にディティールを加える、汎用的なアセットの配置に活用されました。
機能としてはシンプルですが、エディター完結であることによるレスポンスの早さを生かし、素早く結果を確認しながら、デザイナーのみで複雑な配置ルールを構築することができました。
島内の森はPCGによって配置されており、気候や標高、森の深度などから樹齢や樹種が選択されます。
その後、木の生える位置を元に、樹種に適した林床が形成されます。
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MAGNIには、オープンワールドマップとは異なるボス戦闘用ステージが存在し、こちらもUnreal Engine 5 の機能とHoudiniを活用して作られています。
ボス戦闘用ステージは、World Partition の機能であるData Layer を使用し、オープンワールドマップと同一のレベルに読み込まれる仕組みとなっています。
これにより、キャラクターを保持しながらステージ遷移をすることが可能となり、没入感を途切れさせないシームレスな演出を作ることができました。
また、ボスと戦闘するエリアはHoudiniによってモデリングされています。
Mayaを使用しておおまかな形状を作り、Houdiniにインポートしてハイメッシュ化、ディティールや氷の表現の追加などを行いました。
大規模な背景アセットを少人数で制作する場合、手動でのスカルプトモデリングよりも、全体のクオリティへの反映がスピーディーで変更にも強いプロシージャルモデリングは大いに役立ちました。
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これらの技術を組み合わせることで、表現力と開発効率を両立しつつ、ハイエンドなオープンワールド環境を制作しました。
HDRを活かしたライティングと映像表現
MAGNIでは、HDR(ハイダイナミックレンジ)の特性である広色域と高い輝度差を活かし、暗部から明部まで自然で迫力ある映像を実現しました。
- Lumen によるダイナミックな光の変化(昼と夜、洞窟内と屋外など)と Exposure(露出)、Eye Adaptation(視覚順応)を併用し、HDRの高い輝度差と広色域を活かした緻密な光表現
- HDR基準での開発と、SDR環境下での LUT(Look-Up Table) を用いた見え方調整による一貫性のある表現
これにより、洞窟の奥深い陰影から日差しに照らされた眩い光まで、フォトリアルで没入感のある映像表現を提供しています。
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「移動」そのものが楽しいアクションゲーム
舞台は、ノルウェーの自然をモチーフにした広大な島。
馬での疾走、崖登り、斧と雷の力を使ったダイナミックな移動 など、
多彩な移動アクションによって、移動そのものがゲームの楽しさとなるよう設計しています。
島内には雪原、森林、高山地域など多様な気候帯が存在し、時間や天候もリアルタイムで変化。
移動する中で移り変わっていく景観が、探索体験をより豊かにします。
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移動アクションを活かしたダイナミックなバトル
独自の移動アクションは戦闘にも活用されます。
泥と岩で構成された巨大な人造の巨人「モックルカールヴィ」 には、体をよじ登って弱点を攻撃する戦術が有効です。
また、野生動物に斧を引っかけて引き寄せて攻撃するなど、移動アクションを派生させた戦術も展開。
移動と戦闘が一体化した、迫力あるアクション体験を実現しています。
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ストーリーとカットシーンによる世界観表現
主人公はヴァイキングの生き残り 「マグニ」 と、その愛馬 「グルファクシ」。
彼らが暮らす島に突如、不可解な異変が発生します。
狂暴化した野生動物や、泥と岩から作られた人造の巨人「モックルカールヴィ」が島を襲い、平穏を破壊します。
マグニたちはその原因を探り、島に平和を取り戻すために立ち上がります。
カットシーン制作では、以下の技術を活用しました。
- モーションキャプチャ
- 動画からのフェイシャルキャプチャ(マーカーレス)
- 音声から自動生成されたリップシンクアニメーション
これらにより、キャラクターの感情や緊迫感をリアルに描き出し、物語への没入感を高めています。
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快適なプレイのための処理最適化
広大なフィールドとハイエンドなグラフィックを快適に楽しめるよう、パフォーマンス面も最適化しました。
- Naniteメッシュの特性を理解し、グラフィックやゲーム要件を損なわない範囲で負荷を軽減
- Virtual Texture を活用し、高解像度テクスチャや、複雑なマテリアルを効率的に描画
これらの最適化により、高品質な表現と安定した動作を両立しています。
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今後の研究開発に向けて
MAGNIでは、Unreal Engine 5 の機能検証に加えて、Houdini などのプロシージャル生成の有効性も実証できました。
今後も、表現力と開発効率の両立を目指し、Unreal Engine とプロシージャル生成技術の研究開発を続けていきます。
エイティングはこれからも、「挑戦」をキーワードに、より面白く、より高品質なゲームづくりを追求してまいります。
プレイ動画
※©Kartverket 本研究開発にはノルウェー地図局が提供しているLiDARデータを使用しています。
※Unreal Engineのロゴは米国及びその他の国々におけるEpic Games, Inc.の商標/登録商標です。
8ingの強みと特徴
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