ＢＬＯＯＤＹ　ＲＯＡＲの世界

20世紀末、漠然とした不安と危機感を誰もが感じている現代の世界。
突然、奇妙な能力を持つ者たちが現われ始めた。
常識外れの体力と運動能力を持ち、格闘家も裸足で逃げ出すほどの戦闘能力を発揮する人々
それだけではない。
彼等は闘いのさなか、体からまばゆい光を放ち異形の姿へと変身するのだ。
虎の爪を持つ者、狼の牙を持つ者。
その姿は、さながら人狼や人虎として伝説に登場する獣人を彷彿とさせるという…

CHAPTER１＜INVISIBLE HAMMER＞見えざる鉄槌　人類と地球（ガイア）の両者に迫る危機～獣化現象の原因
CHAPTER２＜TRIGGER AND POWDER＞引き金と火薬　ガイアのたくらみ～遺伝子の中に埋め込まれた獣の力
CHAPTER３＜SEALING OFF＞封印　『利己的な遺伝子』～獣化は抑制され、伝説のみに登場する程度の稀な現象となる
CHAPTER４＜AWAKENING …TOO EARLY…＞早すぎた目覚め　タイロン以前に獣化を理論づけした男の悲劇
CHAPTER５＜RE－ACTIVATION OF TRIGGER＞再起動　獣化の再発見～愚かな人間による生物兵器転用の奸計
CHAPTER６＜WHO’S BEHIND TRIGGER？＞引き金の背後には？　獣化現象の発展～本来なら何世代もかかるような大がかりな変化が個人の体に一瞬で起きるのはなぜなのか？

INVISIBLE HAMMER～見えざる鉄槌～

　20世紀後半、急激に発達した科学技術と爆発的に増加する人口は、地球の環境に様々な影響をもたらした。
　しかし、残念ながらそのほとんどは、破壊的な方向へのベクトルを多く備えていると判断せざるを得ない。地球そのものを１つの巨大な生命と捉えるガイア理論の見地に立てば、本来は生命体ガイアのいわば細胞にすぎない人類が、ガイア自体を死に導きかねないという異常な状況である。

　無論、明日にでも地球滅亡の日が到来するわけではない。
　40億年もの長きにわたり様々な変転を経験してきた地球と生命は、そう簡単に絶滅するものではないと楽観することもできよう。
　だが、少なくとも人類にとって破滅は絵空事ではない。自らが生み出し、発展させてきた技術によって、滅亡へ至る道をも作りだしつつある人類。そして、自らの一部である人類の自滅によって、甚大な被害を受ける危険にさらされる地球＝ガイア。
　両者の抱える危機は、見えざる鉄槌が振り降ろされるのを待つように、臨界点へと近づきつつある。

TRIGGER AND POWER～引き金と火薬～

　はるかな昔、ガイアは生まれたばかりの若い種族の行く末に危惧を抱いていた。
　彼等は鋭い牙も爪も持たず、また強靭な体力もなく、危険を避ける敏捷性にも恵まれていなかった。彼等の唯一の長所は、それまでどの種族も持たなかったもの…知性と高度な意思疎通能力のみだったのだ。
　知性は生存競争を勝ち抜くうえで強力な武器となるが、知性の生み出す文明は、やがてガイアと彼等自身にとって脅威となるかも知れない。文明とは意思の力で環境を改変するシステムであり、発展を続ければ、やがて破壊的なダメージを環境にもたらす。
　知性のみを武器に生態系の頂点へと駆け上がろうとする若き種族＝人類を、母なるガイアは不安を抱きつつ見守っていたのだ。

　環境、すなわちガイアの身体そのものに、ガイアの子である人類が直接手を加える…文明による環境の改変は、見ようによっては不遜きわまりない行為だろう。しかし、それを怒るほどガイアは狭量ではない。むしろ浅知恵で自滅しかねない彼等をなんとか救いたいと考え、彼等の生命そのものに介入することを決意したのだ。
　介入といっても、決して人間の目に見えるような性急なものではない。気の遠くなるような長い年月をかけ、ごくゆっくりと人類の進化に手を加えていった。

　ガイアがめざしたのは、知性のみを武器にせずとも生きられる人類。
　そのために、人類の遺伝子内に他の種族の遺伝情報を巧妙に混在させ、生存競争を勝ち抜くために役立つ能力を持たせようというのが、ガイアの計画であった。
　人類文明が発達し、環境へのダメージがガイアの偉大な回復力を持ってしても無視できないレベルに達したとき、遺伝子に組み込まれた『引き金』が作動する。そして人類としての特徴は残しながら、文明に頼る必要のない強力な攻撃力・体力を持つ新たな種族が出現する……はずだった。
　だが、最古の文明がインダス沿岸の森林を砂漠に変え、ゲルマン人がヨーロッバの森を麦畑に変えても、さらに石炭を燃やす煙がロンドンの大気を毒ガスに変えても、引き金が引かれることはなぜかなかった…。

SEALING OFF～封印～

　生命の本質がＤＮＡだとするなら、すべての生命活動の究極の目的は、『遺伝子が自己の複製を作り続ける』のをめざすことだといえる。この考えをつきつめていくと、『生物の体は単なる遺伝子の乗り物であり、遺伝子が自己保存・自己複製のために都合がよいと考える状況を作り出すために活動している』という結論にたどり着く。

　この結論が正しいかどうかは、今の我々には判断することができない。地球そのものの意思とも言うべきガイアの思考が、スケールが大きすぎる故に理解不能なのと同様に、分子レベルで活動するＤＮＡに自己意識や思考があるのかは、人類には計り知れないことなのだ。
　だが少なくとも、ガイアの介入によって人類の遺伝子内に挿入された他種族の遺伝情報は、明らかに遺伝子そのものの活動によってその発動を抑止されているようだ。

　人類の遺伝子は、外挿された他種族の遺伝情報に乗っ取られることを拒絶し、発動の『引き金』を封印した形になっている。総数100億近くという、複雑な体構造を持つ高等動物としては異例の数的繁栄を可能にした、現在の人類の特性は、自己保存・自己複製を至上命題とする遺伝子にとってみれば、失うにはあまりにも魅力的なのだろう。

AWAKENING …TOO EARLY…～早すぎた目覚め～

　今から十数年前、一人の科学者が遺伝子治療の分野において、独創的な着想に基づく研究を行っていた。
　彼は世界各地に伝わる人狼等の獣人伝説に興味を抱き、これを一種の遺伝病ではないかと推測。その解明と治療手段の開発により、分子生物学に革命をもたらそうと試みたのだ。

　また彼は、研究・実験の手法に東洋医学の思想を積極的に導入。驚くべき成果と意外な発見を手にした。
　だが、あまりにユニークでなおかつショッキングな彼の学説・研究は、異端視と冷笑を学会に巻き起こすこととなり、さらに名誉回復を賭けた論文発表の直前に彼自身が謎の失踪を遂げたこともマイナス要素となって、その研究が脚光を浴びることはついになかった…。

RE-ACTIVATION OF TRIGGER～再起動～

　時は流れ、科学は進歩を加速させ続ける。
　巨大多国籍企業体・タイロン社の医薬研究部門所属のプロジェクトチームは、ヒトゲノムの解析作業過程で謎めいた遺伝子コードを発見。それまでの解析で、ヒトの形質とは合致しないために単なるノイズと考えられていた遺伝情報が、発見されたコードの活性化によって、人体に驚くべき変化をもたらすことが明らかになる。
　このコードこそ、ガイアが人間に与え、遺伝子が拒絶した『引き金』であった。

　『引き金』によって、人間の中に埋もれていた他種族の形質・能力が覚醒し、常人を遥かにしのぐ体力・敏捷性を持つ超人が誕生する。さらに、個体によっては、骨格・筋肉の構造から体毛・歯牙など体表の柔組織にまで広範囲の変異が起き、結果として『獣と人との融合体』ともいうべき者の存在までも可能となることが判明。
　この時点で、生物兵器への転用に興味を抱いた同社兵器開発セクションの介入により、研究は極秘事項とされてしまった。

WHO'S BEHIND TRIGGER?～引き金の背後には？～

　ガイアは困惑していた。

　人類のため、よかれと思い行った介入は遺伝子に拒絶され、環境の破壊と人類自体の危機は進む一方なのだ。そのうえ、人類は遺伝子そのものまで解析し、ガイアが人類救済のために用意した能力を思いのままに利用せんとしている。
　ここに至って、ガイアは今までにないほど急激な介入を行う必要に迫られた。
　遺伝情報が正しく発動し、新たな種族が種として安定するためには、本来なら数万年単位の時間がかかる。地質学的な年代感覚を持つガイアにしてみれば、これでも充分すぎるほどの速さだが、現在の状況に数万年もの余裕はもはやない。変化を加速させ、危機を打破せねばならないのだ。
　ガイアは活性化した『引き金』、あるいは活性化の兆しを見せる『引き金』を持つ者に、自らの生命エネルギーを注ぎ込むことにより、一瞬にしてその身体を新たな種族のものへと変化させることを決意した。

　こうして、『獣化』と呼ばれる急速な身体形質の変化を起こす者が、世界の各地、様々な状況で出現することになった…。

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